「ねぇねぇ、今日皆で飲みに行くんだけどよし子行かない?」
帰ろうとした私に声をかけてきたのは、私の数少ない友人の一人のごっちんだ。
私同様、高校卒業後に会社に入社。
同い年で似た様なところが結構ある私達は、同期ということも
背中を押してけっこう早く打ち解けた。
本当、数少ない大切な友達だ。
「ごめん。あんましお金ないし、そういうの苦手だから」
いつもこう言って断ることを知っててごっちんは声をかけてくれる。
わりとさっぱりしてる正確だし、私の引くラインの内側に無理に入ってこようともしない。
ちゃんと見極めて程よい距離を取合っている関係が私達の関係。
外はもう暗くなっていた。
最近、日が落ちるの早くなったんだなぁなんて思いながら足を動かした。
暗くなりはじめた道を急いで歩いて、街灯もない所に住むあの娘のところへ。
独りで星を眺めているあの娘のところへ。
梨華ちゃんの所へ着く頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。
光りが届かない所。
当たり前だけど暗い。
「ごめん、ちょっと遅くなっちゃった」
『そ?そんな遅くもなかったと思うよ』
ふわっとジャンプをして私の膝に乗っかって、細い腕を私の首に巻き付けて。
仕事の疲れが吹っ飛ぶ瞬間。
幸せになれる瞬間。
『今日ね、ここに子猫が来たんだ』
「子猫?」
『うん、子猫。今日その娘と一緒にお昼ねしたんだ』
楽しそうに話す梨華ちゃん。
こういったささやかなことでも梨華ちゃんにとったら大切なこと。
ずっとずっと永い時間独りきりで過ごしてきたから。
前に聞いたら『友達はいるよ』と言っていた。
姿とかは見えないけど風も草も話し掛けてくれると言っていた。
風と遊び、草と遊ぶ。
私が梨華ちゃんに会わなかったらきっと信じることなんて出来なかったこと。
「そっか、今日みたいに天気の良い日だと気持ち良かったでしょ」
『へへっ、何かひとみちゃんに抱っこされてるみたいだった。 温かくて、気持ちよくて』
じゃあきっと良い夢見れたでしょ?
なんてちょっと言ってみたり。
梨華ちゃんは大きく頷いていた。
きっと本当に良い夢が見れたんだね。
それからその夜、一緒に星を眺めた。
遠く輝く星さえも、梨華ちゃんにとったら大切な友達なんだろう。
私には手の届かないモノ。
だけど君なら届くモノ。
星を見ている間、開けていた目に君は写らなかったけど、確かに一緒に星を眺めた。
とりまく風がそれを教えてくれた。