倒れこんだ布団。
すぐ下の床が硬くて、背中が少し痛くなった。
18年。
長い長い私の恋愛。
初恋も梨華ちゃんで、本当に心から愛するのも梨華ちゃん。
人には言えない私の愛。
私はこの街で産まれて、この街で育った。
父と毋は1年前から別の街で暮らしいる。
理由は父親の転勤。
私も付いて来いと言われていたけど、高校卒業後に就職した私は
このままこの地に留まることにした。
仕事も理由の一つだけど、本当の理由は梨華ちゃんと離れたくないから。
私が初めて梨華ちゃんに会ったのは私が2歳の時。
母に連れられてきてもらった街全体が見渡せる丘。
その丘に立った木。
毋の膝の上で目を閉じたら、梨華ちゃんが表れて私の頬をつっついたんだ。
2歳の時の記憶だけど今でも思い出せるよ。
梨華ちゃんとの初めての出会い。
最初はね、ずっと夢を見ているんだと思ってた。
私にしか見えてないみたいだし、私にしか聞こえてないみたいだったから。
でもね、何度も何度も決まった場所で同じように私の前に出てきてくれて、
そのうちやっとこれが夢じゃないってことに気が付いたんだ。
そして私は触れることの出来ない梨華ちゃんに恋をして、そして愛を知った。
私の周りの数少ない友人は、どうして私がずっと恋人とかを作らないのか不思議がっていた。
こう見えてもさ、私って以外にモテるんだよ。
だけどさ、梨華ちゃん以外に興味のわく人なんていなくてさ。
梨華ちゃん以外にこんなに心を掴まれることもないんだ。
自分の中の恋心に気が付いたのは中学生くらいの時かな。
もうあんまり覚えてないんだけど、多分中学生の時だよ。
毎日毎日、雨の日でも雪の日でも晴れた日でも梨華ちゃんに会ってて。
ある日さ、梨華ちゃんがすっごく寂しそうに笑った時があったんだ。
もうね、私それで恋に落ちた。
梨華ちゃんの笑顔を全力で守りたくなった。
きっとさ、もっともっと前から好きだったんだと思う。
梨華ちゃんのこと。
ただそれがきっかけだったんだ。
でさ、私が中学校を卒業した日。
渡せないけど自分の第2ボタンあげたくて、そのこと、梨華ちゃんに言ったんだよね。
そしたらさ、涙ボロボロこぼして泣くんだもん。
焦ったよ。
だけどすっごく愛しく思った。
触れられないのがもどかしくて、本当はぎゅっと抱きしめたいのにね。
いつも触れてきてくれるのは梨華ちゃんだけ。
目では見えてるのに感じるのは風だけ。
こんなに胸が苦しくなったのは人生で初めてだったよ。
もうね、抱きしめられないのに宙を掴むように君を抱きしめたもん。
風がすごく熱くなったのを感じたよ。
それで私も梨華ちゃんの気持ちを感じた。
あぁ、一緒なんだなぁって思った。
嬉しいのに余計に苦しくなった。
想いを打ち明けあって、気持ちが通じ合って。
余計に梨華ちゃんを感じたくて。
分かっているのにそれがダメでさ。
気持ちっていうのは上手いことコントロール出来ないもんだね。
もう嬉しいはずなのに私は何度も泣いたよ。
今はその回数は減ったけどね。
うん、大人になるにつれてね。
会えば会う程惹かれていって。
それは今でも変わらない。
ごめんね、今日もまた困らせちゃッたね。
だけどさ、今日泣いたらまた明日からは元気な顔で君に会いにいくからね。
一人暮らしの部屋の中、一枚だけ貼ってある写真。
小さい頃に撮ってもらった写真。
幼い私と一緒に写ってるのは私よりもずっと大きな綺麗な木。
はじまりの写真。
私の大切な大切な彼女の写真。
その写真を見て、今日私はまた少しだけ枕を濡らした。