いつものように訪れた場所。
小さい頃からずっとずっと訪れている場所。
夏になれば心地よい日陰を作ってくれて、
秋になれば綺麗な音を奏でてくれて、
冬になればカラカラと風を受けながら鳴り響くような音をたててくれて、
春になれば綺麗な花を咲かせてくれる。

「今日も来ちゃった」

座り込んで、背中をつけて。
目を閉じるのが気持ち良くて。
だってさ、目を閉じると君に会えるんだもん。

開けると消えてしまう幻。
小さい頃からずっと一緒にいる幻。


私の夢はね、君と一緒に歩くこと。

 

 

 

 * * * * 風のままに、君のままに * * * *

 

 

 

「今日はさ、私が始めてここに来た日から数えて調度18年目になるんだよ」

いつもみたく地面に腰を下ろして目を閉じる。
夏の陽射しを程よく遮り、過ごしやすい木陰を作ってくれてる君に
感謝をしながら風の音に耳を澄ませた。
ほら、すぐに聞こえてくる。
風の音に混じって聞こえる少し高めの君の声。

『もう18年になるんだ。何か月日が流れるのも早いよねぇ』
「本当だよ。もう私20歳だよ」
『ここに始めて来た時なんてすっごく小さかったのに』

風と葉の音に交じってクスクスと笑う声。
瞼に写る君は、昔から変わらない姿で私の前で笑っている。
何で目を閉じてる時にしか会えないのかなぁ・・・。
触れることも出来ないし、君の体温を感じることも出来ないんだよ。

『どうしたの?今日は元気ないね』

私の前髪に触れていてくれてすはずなのに、感じられない君の体温。
風だけが優しく吹いて、私の前髪を揺らしてくれる。

「・・・梨華ちゃん」
『ん?』
「私もさ、梨華ちゃんと同じみたいになることできるの?」
『・・・それは』

風が動揺したようにユラユラと少し激しく揺れた。
・・・ごめんね。
何度も何度も同じ質問をして、君を悩まして。

「へへっ、言ってみたかっただけ。だからそんな困った顔しないで」

だからさ、そんな悲しそうな顔しないで。
ほら、風まで寂しそうに吹いてるから。
そんなじゃ他の草だって悲しくなっちゃうよ。

『ひとみちゃん・・・』

いつだって私の頬に触れてくれているはずの唇の温もりを感じるのは幻覚の中のだけで、
感触のように感じるのは風が私の頬を吹いているから。
私は手を伸ばしたって君に触れることが出来ない。
ただ目を閉じて君を見つめて、ただ目を閉じて君の声を聞くだけ。


いつかさ、私も君の唇に触れてみたい。

人の形をした私と、木だけど人の姿をした君。
だけど私達は愛しあっている。
君を感じられるのはこの木の元で目を閉じた時だけ。
君を愛した私と私を愛してくれた君。
永遠なる愛をここに感じて、私はここでいつも誓う。
交われなくてもいい。
ただ君を愛していく、と。

 

 

 

 

 

 

 

出会いから----→