今、彼女はここに住んでいる。
着るモノなんて何も持ってないから私の服を着ながら。
服、早いうちに買いに行こうねって言ったら

『ひとみちゃんの匂いがするからこれがいい』

そう言ってずっと私の服を着ている。
服ごと抱きしめたら梨華ちゃんと、風が嬉しそうに笑った。
私が仕事に行ってる間は頑張って部屋の掃除をしてくれてるんだけど・・・
ちょっと、いや、あんまり上手じゃないんだよね。

あ、そうそう。
樹の精(って自分で言ってた)だけど風だけ使えるんだってさ。
だけど前よりも上手く操れないらしくて、あんまり使わないみたい。
でも、たまに風と戯れてる姿を見ることが出来る。
瞼で見ていた時と同じ表情で楽しそうに風と喋って。
聞きたいことは沢山あった。
だけど彼女自身、覚えていることが少ないんだそうだ。
多分、あの『永遠の一瞬の狭間』に落としてしまったんじゃないだろうか。
そう言っていた。

私と出会った時のこととかは覚えてるみたいで、
それよりも前のことがあんまり覚えてないんだそうだ。
落雷の時のことは聞くに聞けなかった。
私自身、彼女自身、飛び越えるハードルは高いから。
あの落雷の後、彼女は『永遠の一瞬の狭間』で時たま私のことを見ていたらしい。
恥ずかしい話しだが、あの荒れた生活を見られていた。
彼女はそれが自分のせいだと思って心を痛めていたんだそうだ。
余計に自分の行動を恥ずかしく思った。
一瞬でも彼女にそう思わせてしまった自分の行動を取り消したかった。
まぁ、無理なことなんだけどね。

私達は触れ合える喜びを感じあった。
と、言っても抱きしめたりキスしたり。
それ以上のことが出来ないのは・・・きっとそうじゃなくても満足してるから。
触れ合えるだけで十分だって思える。

近くで感じる君の吐息。
近くで感じる君の鼓動。
髪を撫でてくれる手、一緒に漂う気持ちの良い風。
きっと今の私は世界一の幸せもの。
そう自惚れたっていいんじゃないかって思う。

夜、梨華ちゃんを抱きしめて眠る時には私と同じシャンプーの匂いがして、
柔らかくて温かい温度が同じように私を包んでくれて。
仕事から帰ってくれば一生懸命つくってくれた料理を食べさせてくれて。
手を伸ばせば捕まえられる幸せ。
こんなにも満たされたことはなかった。
こんなにも、いつも泣きそうになることはなかった。

「梨華ちゃん」
「ん?どうしたの?」

なんて言えば君は喜んでくれるかな。
どうすれば君はもっと満たされるかな。

「ひとみちゃん?」

私ばかり満たされている気がして、もっとこの気持ちを梨華ちゃんに届けてあげたくて。
知ってもらいたくて。
私は君の細い肩を抱き締める。

「とりあえずは一緒にお風呂でも入りますか」

笑って言ったらちょっと頬を赤らめて、小さく一言『夜になったらね』
求めるものはきっと同じで、多少違かったとしても、多少は同じで。
言葉じゃ伝え切れない想い、今夜君に届けるからね。
伝えたくて、とても君が欲しいから。
一度だってしたことがないこと、少しずつ体験していこう。
そしていつかあの場所を訪れよう。
私と梨華ちゃんが出会った場所に。
全部を飛び越えれる強さを持ったら。

『ずっと私といて下さい』

そう伝えよう。沈んでいく夕日を狭い部屋で一緒に眺めて、触れるだけのキスをして。
もっともっと一緒にいよう。

 


溶け合ってしまう程、深く何処まで一緒にいようね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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