夏に彼女を見れば、あぁ夏の娘だなぁなんて思うけど、冬に彼女を見れば、あぁどさんこだぁなんて思う。
あの白い肌のピンクほっぺは、いつだって太陽の光りを浴びている。
間違いなく、彼女は…
 
【セレストブルー】
 
この日は雨が降っていた。冬に降る冷たい雨は彼女の頬をいつも以上に膨れさせた。
「天気予報の嘘つき」
「でも日本の天気はよみにくいって言うじゃん」
おいらの今日の予定は午後からの雑誌取材で、その後は新曲のダンスレッスン。
一時期に比べて落ち着いたと言えば落ち着いたけど、まだまだ忙しいのには変わりない。
昨日帰りが遅かったなっちは、今日は丸一日オフ。
重なった午前のお休みに、なっちの家でごろごろしながら映画でも観ようと決まったのはいつだったかな。
「怒ってたって晴れないよ。んで、何観る?」
「…やぐちは愛がない」
「いや、むしろおいらの愛は無限大」
昨日の夜、なっちの帰りを待っているうちに眠ってしまったおいらを叩き起こしたなっちは、
ちょっと高めのテンションで明日、つまり今日は布団を干すんだぁって高らかに宣言した。
まさかその宣言の為だけに起こされたのか?なんて眠気眼で思っていたのは記憶に新しいことで、
目が冴えてしまったおいらの横で、気持ちよさそうに眠っていたなっちをみていたのは数時間前のこと。
この家でむかえる朝は、いつも早いと感じる。
だから毎日は駆け抜けるように過ぎて行く。
「やぐちは分かってないべさ」
「むしろそれが分からないから」
目を瞑って掴んだDVDをセットして、床に転がっているなっちの横に座り込む。
カーテン越しに見える空は、映画を観るには絶好の色をしていて、布団を干すには最近の色。
この天気が続けば、なっちのおヘソはいつまでたったって明後日の方向を向いてるだろう。
おいらはテレビの方を向きながらそんなことを思った。


「ねぇやぐち」
「んー?」
映画がはじまってから数十分経ったくらいかな。
今まで黙って映画を観ていたなっちがポツリと呟いた。
「やぐちはお日様の匂いが好きじゃないの?」
「なんで?」
「なんか、そんな気がしたから」
映画は中盤、大事な場面の一方手前。ラストに向かってテンポアップするワケでもなく進んでいく。
静かだなぁなんて思いながら字幕から目を反らすと、なっちがおいらの部屋から持ってきたプーさんを
膝の上に乗っけながら画面を見つめていた。
空は相変わらず黒い色を剥ごうとはしない。
なんか、ちょっと微妙な感じだ。
「何で?」
もう一度問いかける自分に何言ってんのさと自分で突っ込んでみて、
答えを訊きたいのはおいらじゃなくてなっちの方なんじゃないかと思った。
いや、思ったっていうかそれが正解なはず。
目で追っていただけの映画のせいにして良いなら、おいらは言葉を発する前に考えなさすぎた。

「…好きだよ」

だから訊くのはちょっと間違っていて、これ以上外を暗くするのは大間違い。
雲は余計にかけちゃいけない。
「キライなはずないじゃん」
おいらは太陽が好きだ。
だからお日様の匂いも好きだ。
キライだったらここにいないし。
「…そっか」
「そうだよ」

おいらは思う。
仕事もしてるし、どんな天気の良い日だってお布団を干せない日がある。
だけど別にいいんじゃないかって。
そりゃ万年床はどうかと思うけど、それでも思う。
温い体から生まれた太陽は、太陽に負けないくらいに温いヤツで、それが大切な人なら
ヤツは太陽よりも強力なパワーを持つ。
たまには充電で本物の太陽さんも必要で、干した後の布団は最高だけど、
だけどそれだけじゃ何か足りないんだ。
もう、足りないって感じちゃうんだ。

「やぐち」
「ん?」
「なっちはなっちが太陽光線天使なんだよ?」
「なんだそりゃ」

おいらは思う。
多分なっちは太陽の子だって。
なっちのちょっと痛い言葉をかりるなら、『なっち天使』ってやつ。
自分で自分のこと太陽光線とかいっちゃってるけど、おいらはそんな太陽光線天使に
最初から勝ちを捨てて捕われた矢口真里。
今も未来もこの先ずっと尽きない陽から逃げられない。
というか、逃げるつもりもないというか。
だから腕の中に閉じ込められて嬉しくなる。
さっきまでなっちの膝の上にあったプーさんはおいらの膝の上におさまっている。
この子にも染み付いたお日様の匂い。
背中にある大きな太陽と腕の中にある黄色を染めあげた青色。
もっともっと染み込んじゃえ。
もっともっと広がっちゃえ。
おいらの最強のお布団は、もっともっと暖かくなれるんだい。
自分でこんなこと考えておきながら、何だかくすぐったくなってしまって、
なっちの腕の中でもぞもぞしてみたら、自称、太陽光線天使はさっきよりもきつくおいらを閉じ込めた。
 
結局一日中降り続いた雨。
一日のスケジュールを全て消化してなっちの家に行ってみれば、干せなかった
お布団さんの中にはプーさんが寝ていた。今日の布団は空色だろう。
だから明日はおいしいとこ取りをしているおいらが先に染めておくよ。
自分のこと太陽光線天使とは言わないけど、なっちを暖めることに関しては
太陽なんかには負けない自信があったりするから。
だからなっちが帰ってきておいらを叩き起こすまで、明日の布団はおいらが
太陽に負けないくらいの熱をを浴びせてあげるよ。
 
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