雨なんだ。

窓の外ではまだ雨が降っていた。
隣で眠る君のことを起こさないようにそっとベッドから抜け出して、足元に落ちているシャツを掴んで袖を通した。
素肌に感じる冷たさが、火照った身体には丁度良かった。
窓に近付いてひんやりする硝子に手を置いた。

何度も訪れたこの部屋。
何度も紡ぎあった言葉。
何度も重ねあった身体。
だけどこうして1人で夜の雨を見るのは初めてだった。
じっと見ていても景色は代わるワケじゃないし、この強い雨は当分止むこともないだろう。
だけど私はこの雨に不思議と魅せられていた。

後ろの方で感じる君の息遣い。
疲れてるんだよね。
仕事、ハードだもんね。
その上、今日ちょっと優しくできなかったかもしれないし。
別に嫌なことが何か特別にあったワケじゃない。
だけど今日は窓の外で雨が降っていたんだ。
そうしたら君を優しく抱くことが上手く出来なかった。

何でだろうね?
雨のせいにしたら怒られちゃうね。
でもね、本当に今日は不思議な感じだったんだ。
私の腕の中で愛しい彼女が私の名前を沢山呼んだ。
汗ばんだ身体に爪を沢山たてられた。
そのことを彼女はことが終わった後に沢山謝った。
謝ることなんて何もないのに。
私はむしろ君のつけてくれた痕が嬉しいのに。

雨はまだ強く降り注いでいる。
後ろで眠る君はこの雨を一度も見ないで太陽を見るのかな。
何だかそれはとっても勿体無い気がするんだよね。
『雨なん降る時には降るんだから別に今見る必要はないんじゃない?』
そんなこと言われそうだけど、今日の雨は何だかとっても特別に見えるんだよ。

例年よりも長い梅雨。
梅雨らしく沢山雨が降った。
だから沢山雨が降った。
雨が降った日でも君のことを沢山愛した。
でもね、今日の雨、やっぱりいつもと違うんだ。
強いんだけど儚いの。

そんな雨を見た後に君を見たからかもしれないね。
濡れた髪、濡れた唇。
何処かに消えちゃうんじゃないかって思ったんだ。
・・・そっか、だから優しく抱きしめることが出来なかったのか。
君の存在を私に刻んで、私の存在を君の中に刻みたかったんだ。
秋からはこうやって過ごす時間も少なくなっちゃうんだよね。
バラバラになっちゃうワケじゃないけれど、バラバラになっちゃうから。

布団から覘く君の素肌が愛おしい。
会えない時間がこの頃増えて、触れられない時間もこの頃増えて------
だけど今以上に君に会えない時間が増えるのか。
強がってはいるけど、結構寂しい。
結構辛い。

でもね、私頑張るからね。
約束したもんね。
『お互いにもっともっと大きくなろう』って。
刻まれた約束は、私に刻まれた痕なんかよりも全然強い。
馬鹿だなぁ、今頃気付いちゃったよ。
もう少し早く気付けばもっと君を優しく抱いてあげることが出来たのに。
辛かったかな。
だったらごめんね。

雨はまだ降っていた。
だけどさっきよりも少し弱くなっていた。
『雨がね、綺麗なんだよ』
そう言って君を起こしたら、君はどんな顔をするのかな。
ちょっと試してみようかな。一緒に今日の雨見よう。そしてまた君を愛させて。
今度は優しく抱き締めるから。

 

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