「ひーちゃんまだぁ〜?」
「だからその呼び方恥ずかしいから止めてってば!」


今日は珍しくエプロンなんかつけてます。
そして梨華ちゃんの家の台所でカタカタ包丁動かして必死になって料理作ってます。
梨華ちゃんはリビングでクッション抱えてビデオ見てます。
えぇ、梨華ちゃんは手伝ってくれてませんよ。
ん?何でかって?
それはね−−−

 

 


15時間前 〜某テレビ局の楽屋にて〜

「梨華ちゃん梨華ちゃん、今日のお弁当は自分で作ったの?」
「うん、そうだよ。たまには作ってみよっかなぁって」
「・・・欲しいのれす」

と、いつも誰かのお弁当を狙う辻と加護の本日の餌食になった梨華ちゃん。
日替わりお弁当おかずキラー。
もう皆慣れたもんで、下手に逃げようともしない。
(逃げたって絶対に振り切れないから)

ヨダレが垂れそうな辻と、目をキラキラさせている加護の口へと梨華ちゃんは
自分の作ってきたお弁当のおかずを運んでいく。
辻も加護は何とも嬉しそうな顔をして口を開けて待っている。
あれだ、親鳥とヒナ(×2)って感じの画だ。

そして2人は満足そうに口をもごもご動かして、目をキラリと光らせた。
で、あたしの方へと来た。
今日は珍しく2人狩り。

今日はあたしも手作りだったりする。
それもちょっと自信あり。
どうよどうよという感じでおかずを2人にあげたら・・・。
『『梨華ちゃんの方がおいしいね』』

 

 

 


−−−−−−そりゃ火がつくでしょ。
メラメラ燃えてくるよ。
そりゃさ、あたしも安倍さんみたく旨い!!って言われるワケじゃないけどさ。
でもさ、でもさ、何て言うの?
『梨華ちゃんには負けたくない!!』みたいな変な気持ちがあるワケよ。

んで、辻と加護の頭を両手で押さえて宣言しました。
『今日梨華ちゃんの家でお料理勝負だ!!』って。
梨華ちゃんは『?』マークを浮かべてたけど、普通に頷いてくれて、辻と加護は
あたしが強制的に頷かせた。
小さく聞こえる『何でのの達が・・・』とか言う台詞は無視ね。

 

でだ、ついさっきね1時間くらい前ね。
 負 け ま し た
えぇ、見事玉砕。
辻も加護も梨華ちゃんの料理の方がおいしいと言って帰っていきました。

何でかなぁ?何でかなぁ?と思って食べてみたのさ。
自分の作ったのと梨華ちゃんの作ったの。
そして梨華ちゃんの料理の方があたしもおいしいって思ってしまったワケですよ。

やっぱし『何でかなぁ』と思ったあたしはそのまま梨華ちゃんの台所を借りて、 お料理再チャレンジ。
審査員はあたしと梨華ちゃん。
同じ料理で勝負です。
明日も仕事があるから梨華ちゃんが料理を先に作ってる間にあたしがお風呂に入って、
あたしが料理を作ってる間に梨華ちゃんがお風呂に入って。
お風呂から上がった梨華ちゃんはリビングでクッション抱えてビデオ見てます。
んであたしはエプロンつけて、カタカタ包丁動かして必死になって料理作ってます。

「ひーちゃん、パスタはちゃんとお鍋で茹でるんだよぉ。
 フライパンで茹でたりしちゃダメだからねぇ」
「ま、前みたいに変な作り方しないもん!
 あたしだって少しは料理出来るようになったんだからね」

梨華ちゃんは相変わらずクッションを抱えて楽しそうに『血がどばーって出るビデオ』を観ている。
余裕だなぁ。
悔しいなぁ。
絶対『ひとみちゃん、おいしい』って言わせてやるんだから。

カタカタカタカタ音をたてて、じゅーじゅーじゅーじゅー音をたてて、はい完成。
やっとこさ完成。
『ミートソースは手作りね!手作りパスタ対決(あたし命名)』
自信ありだよ。
あたし自信ありだよ。
ちょっと味見したらおいしかったもん。

そして先に作った梨華ちゃんがミートソースを温める為に台所に登場。
今度はあたしが『血がどばーって出るビデオ』観賞。
・・・食事前に見るもんじゃないよね。
まぁ観たんだけどね。

 

で、5分後。
テーブルの前に置かれた4つのお皿。
あたしの前にも梨華ちゃんの前にもそれぞれが作ったパスタが置かれている。
見た目もほとんど同じ。
ついでに量まで同じにした。

 

「よし!それじゃぁ・・・」
「「いただきます」」

 

ドクン、ドクンと鳴る心臓。
けして大袈裟だってワケじゃないよ。
本当に心臓が大きな音をたててるのさ。

 

喉の奥がゴクリと鳴って、まずはあたしの作ったパスタ。
クルクルフォークにパスタを巻いて、口に運んだ。・・・。

次は梨華ちゃんの作った方。
同じようにクルクルフォークに巻いて、口に運んだ。

 

 

・・・。

 

 

「・・・やっぱし梨華ちゃんの方がおいしい」


材料も全部同じにしたはずなのに。
調味料も同じの使ったはずなのに・・・。
・・・何でだろう。

「そう?私はひーちゃんの作ってくれた方がおいしいよ」
「んへ?」

梨華ちゃんはにっこり笑ってパスタを口にどんどん運んでいく。
『ひーちゃんも食べちゃいなよ』って言ってどんどんドンドン食べていく。
そしてあたしも食べていく。
ドンドンどんどん食べていく。
だっておいしいんだもん。

で、2人並んで食器を洗って今度は『海が綺麗なビデオ』観賞。
横に並んでマターリして。
何でかなぁ、何でかなぁって考えてたり。
観ている内容なんて実はあんまり見てないね。
だって映画の途中で寝ちゃうあたしだよ?
寝てないだけでも奇跡だよ。
まぁ自慢でもなんでも無いんだけさ。

梨華ちゃんは隣で目をキラキラさせながら感動シーンと言われる映画のクライマックスを観ていて、
梨華ちゃんの隣ではあたしが頬に空気を入れたり出したりして『何でかなぁ』の考え事。

「ねぇ、ひとみちゃん」

あ、もうひーちゃんじゃなくなったんだね。

「まだ考えてるの?」
「うん」

考えてるよ。
だって気になるもん。

 

 

それからちょっと経って映画は終了。
スタッフロールが流れて終わってビデオは巻き戻し開始。
何でこれはDVDが出てなくてビデオだけなんだろうなぁなんて思いつつも、考え事。

「何でかなぁ〜」

アホみたいに同じ台詞くりかえし。
今日は『何でかな〜』Dayだ。

「そんなの簡単なことじゃん」

巻き戻しの終わったビデオを取り出して、梨華ちゃんは『まだわからないの?』と
言うようにあたしの頭の上にクッションをぽふっと置いた。
あたしの顔が暗くなった。

「何が簡単なのさ」
「すごく簡単なのさ」

ぐいっと顔が近付いて、クッションの下で梨華ちゃんとあたしの顔が暗くなった。
梨華ちゃんはあたしの鼻に人さし指を置いて『本当にわからないの?』って顔をしている。
本当にわからないあたしは頬に空気をまた入れて『本当にわからないよ』って顔をした。

「だからね、とっても簡単なのよ。
 私はひとみちゃんに『おいしい』って言ってもらいたくて作ったわけで、
 ひとみちゃんは私に『おいしい』って言ってもらいたくて作ったわけでしょ?」

 

・・・まぁ確かにそうだ。

 

ちょっとズレてたかもしれないけど、梨華ちゃんに『おいしい』って言わせたかったもん。

「そういう気持ちがこもってたからでしょ。ほら、簡単。すごく簡単」

ニコッと笑って梨華ちゃんはクッションの下から出ていった。
あたしの顔だけが今は暗い。

・・・そういうものなのかな?

クテッ首をかしげたらクッションが頭から落ちてあたしの顔は明るくなった。

「私はね、ひとみちゃんが私の為に作ってくれたって思うだけで嬉しいし、
 おいしい料理も、もっともっとおいしく感じるんだ」

 


『だからそういうものでいいじゃない』

 

 

梨華ちゃんが笑うと本当に『そういうものでいいじゃない』って思うから不思議だ。

 

・・・うん、確かにそうかもね。

 

あたしも『梨華ちゃんが』って思うだけでおいしく感じたもん。
ってか『梨華ちゃんが作った方』っていうのが当りなんだけどね。
ともかく『梨華ちゃんが』って思ったらおいしく思った。
だからそういうものなのかなって思った。

・・・そうだよね、当たり前すぎて忘れがちだけど、誰かが誰かを思って作ってくれてるんだもんね。
おいしいはずだよ。
嬉しいはずだよ。
幸せなはずだよ。

あ〜あたしってやっぱしアホだわ。
そんなことも忘れてた。

「ほら、明日もお仕事なんだから歯磨きしてもう寝よ」

口をぽけーっと開けてたあたしは梨華ちゃんに連れられ洗面台へ。
あたし専用で歯ブラシと、梨華ちゃん専用歯ブラシをそれぞれもってシャコシャコ開始。
2人して洗面台に並んで鏡に向かって無表情でシャコシャコシャコシャコ。
そんでもってガラガラぺッ。
お口もスッキリした所でベッドに2人並んで寝転んだ。
で、今日はちょっと寒かったから、梨華ちゃんに近寄って体温を分けてもらうことにした。

目覚ましをセットして、2人して同じ天井を見上げて、しばらくボーッとした。
しばらく経って、梨華ちゃんが『電気消すよ』って言って部屋は真っ暗に。

「おやすみ、ひとみちゃん」
「・・・あぁうん」

 

 

チクタクチクタク時計が鳴って、チクタクチクタク言葉が舞った。
もう梨華ちゃんは寝ちゃったかなぁって思いながらも言葉を声に出してみた。

 

「・・・ありがとね」

 

忘れてた気持ち、感謝の気持ちとか色んなこと思い出させてくれて。
あたし、幸せが当たり前になってたわ。
感謝の気持ちもすっかり忘れて、幸せにボスボス埋もれてたわ。
あたしの幸せもん。
埋もれて埋もれて気付かなかったアホな幸せもん。

「・・・どういたしまして」

ありゃ、寝てなかったんだ。
梨華ちゃんが寝返りをうって、身体があたしの方に向いた。
だからあたしも天井に向けてた身体を梨華ちゃんの方に向けた。

「あたしは幸せもんだわ」
「私も幸せもんだよ」
「じゃあお互い幸せもんだ」

それってすごく幸せなことだね。
そう言ったら梨華ちゃんは眠たそうに笑った。

明日は午前から仕事だからもうそろそろ眠らなきゃ。
そう思って『おやすみ』を言おうと思ったけど、ずっと心にひっかかっていた『考え事』を
聞いてみることにした。

「辻と加護はどうして梨華ちゃんの料理を選んだのかなぁ?」

梨華ちゃんは目をちょっと擦りながらさらりと言った。

『私の料理の味の方が好きだったからだよ』

って。

 

 

・・・納得だよ。


あぁなんか一気に眠くなってきたわ。
だからもう寝る。
絶対すぐ寝る。

「・・・おやすみ梨華ちゃん」

梨華ちゃんは『おやすみ』を言う代わりにあたしの頬にちゅってキスをして目を閉じた。
だからあたしもおかえしに頬にキスをして目を閉じた。

 

 

幸せっていうのはすごく近くに沢山あるんだなって思った。
沢山ありすぎて自分自身が埋もれちゃって気づけなくて、気付かなくなって。
贅沢な幸せもん。
あたしはめちゃめちゃ贅沢な幸せもん。
そして隣で寝ている梨華ちゃんもあたしの幸せの一つなワケで・・・

 

 


・・・うん、やっぱしあたしは幸せもんだ。

 

 

 

だからその幸せを抱きしめて今日は眠ることにしよう。

 

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